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2020年01月30日 [ニュース]
成年後見制度の落とし穴 〜50代男性のケース〜
今回は、深く考えずに成年後見制度を利用してしまった50代男性の悔やんでも悔やみきれないエピソードです。
ヒアリング結果に基づいて、以下のような感じで仕上げてみました…。
迂闊だった...。
認知症の母を施設に入れて数ヶ月が経過。母の言動に疲弊していた妻の精神状態も安定し、家庭にも平穏が戻りつつあった。その日は母の見舞いがてら、当座の施設利用料相当を引き出しに銀行に立ち寄るつもりでいた。
かねてより母から預かっていたヴィトンのセカンドポーチから預金通帳とキャッシュカードを取り出し、母に示しながらその旨を伝える。
「でさ、暗証番号、教えてくれる?」
「なによ?」
「だから、●●銀行のキャッシュカードの暗証番号さ」
「ええ?暗証番号?アンタ、知ってるでしょうよ」
「知らないよ。だから訊いてんだよ」
「あら、そうなの?やぁねぇ…」
それから数十分後、ATMの前で私は舌を打つことに。イヤな予感は的中した...。
「...ということなのですが…。50万円ほどおろしたいのですが」
女性行員はいったん奥へさがり、しばらくして管理職らしい男性行員とともに戻ってきた。そこで私は、認知症の母親名義の預金を引き出すためには、家庭裁判所に申請して成年後見人をつけてもらわなければならないと告げられたのだった。かなりの時間を費やして事情を伝えたものの願いは叶わず、私は翌週から、有給休暇を取得して複雑な手続きをこなさなければならなかった。
約3ヶ月後、60歳代後半とおぼしき元公証人なる弁護士と顔合わせすることに。その場で、次回までに以下を揃えておくよう告げられた…。
母親名義の預金通帳、銀行印、キャッシュカード、暗証番号、不動産の権利書、実印、年金手帳、生命保険証書……。
これらを茶封筒に入れ終えると、彼はきわめて事務的に言い放った。
「今後はお母様の後見人として、これらの一切を私が責任を持って管理させていただきます」
さらに、彼への報酬として月額6万円を支払う必要があることを付け足した…。
「あっ。そうそう。お母様の財産管理に伴って発生する交通費も発生しますので。早速でなんなんですがね。これ、いいですか?」
タクシーの領収書…。2,380円? おいおい。人のおカネだと思って、どんだけの距離、タクってるんだよ…。チッ。おかしいだろ、これって!
この日を境に、施設の支払いをするにも年金を引き出すにも、その都度、彼に連絡を取り、金額と必要時期と使途を伝え、彼の了承を得なければならなくなる。それどころか、銀行や郵便局等へ出向くのにかかった交通費まで請求される始末である。
ある時、母親名義の財産総額と明細を知りたいと依頼したことがあった。ところが、「後見人は管理対象である被後見人の財産状況について、ご家族に伝える義務は有していない。と言うよりも、ご家族に必要以上の情報を開示してはならないというのが裁判所のガイドラインなのだ」ときたものだ。
他にも、もう実家に戻ることもないであろう母の名義になっている実家の土地と家屋を売りに出すことを検討している旨を告げると、「不動産を売却しないとどうにもならない経済状況であることを示してほしい。その上で、私から家庭裁判所に相談してみる」とのこと。
結果的に母親名義の不動産に手をつけることは認められず、誰も暮らしていないし、この先も使用する可能性のない実家の固定資産税を納め続けるだけの状況がかれこれ5年も続いている…。
実の親名義の財産を赤の他人にすべて預けさせられ、1円たりとも実の子が触れることができないなんて…。この不条理を訴え打開策を探ろうと、法務省・家庭裁判所・金融機関・自治体の法律相談にコンタクトするも、どこも杓子定規で埒があかない。それどころか、「成年後見制度についてきちんと理解をした上で申請手続きをしたのですよね」と諫められる始末である。釈然としない日々は、母が亡くなるまで続くのだそうだ…。
【著者コメント】
終活ブームも久しいが、この市場を取り込もうと、最近は金融機関や法律家がかまびすしい。首都圏では盛んにセミナーが開催され、多くの場合、認知症になってもいいように、元気なうちに墓を用意しろ。葬儀の予約をしておけ。任意後見人を用意しておけ。遺言を書いて公正証書にしろ。弁護士や司法書士に家族信託契約を依頼せよ…といった具合である。途轍もない違和感を覚えずにはいられない。明らかに順番が違うと思うのだ。終活の第一歩は親子間で腹を割って会話することだ。それには、親世代から子ども世代に声をかけ、子どもの成長とともに離れていった心理的距離を縮めなければダメ。その上で、子どもたちに託すものと、子どもたちにサポートしてほしいことを伝える。このプロセスをすっ飛ばして、終活セミナーの煽動に乗ってしまうのはよくない。子どもたちとの関係修復に難がある場合に限って、公証証書遺言や成年後見制度や家族信託契約といったテクニカルな話を検討すればいい。終活の優先順位を間違えると、後々厄介なことになると肝に銘じておきたい。
ヒアリング結果に基づいて、以下のような感じで仕上げてみました…。
迂闊だった...。
認知症の母を施設に入れて数ヶ月が経過。母の言動に疲弊していた妻の精神状態も安定し、家庭にも平穏が戻りつつあった。その日は母の見舞いがてら、当座の施設利用料相当を引き出しに銀行に立ち寄るつもりでいた。
かねてより母から預かっていたヴィトンのセカンドポーチから預金通帳とキャッシュカードを取り出し、母に示しながらその旨を伝える。
「でさ、暗証番号、教えてくれる?」
「なによ?」
「だから、●●銀行のキャッシュカードの暗証番号さ」
「ええ?暗証番号?アンタ、知ってるでしょうよ」
「知らないよ。だから訊いてんだよ」
「あら、そうなの?やぁねぇ…」
それから数十分後、ATMの前で私は舌を打つことに。イヤな予感は的中した...。
「...ということなのですが…。50万円ほどおろしたいのですが」
女性行員はいったん奥へさがり、しばらくして管理職らしい男性行員とともに戻ってきた。そこで私は、認知症の母親名義の預金を引き出すためには、家庭裁判所に申請して成年後見人をつけてもらわなければならないと告げられたのだった。かなりの時間を費やして事情を伝えたものの願いは叶わず、私は翌週から、有給休暇を取得して複雑な手続きをこなさなければならなかった。
約3ヶ月後、60歳代後半とおぼしき元公証人なる弁護士と顔合わせすることに。その場で、次回までに以下を揃えておくよう告げられた…。
母親名義の預金通帳、銀行印、キャッシュカード、暗証番号、不動産の権利書、実印、年金手帳、生命保険証書……。
これらを茶封筒に入れ終えると、彼はきわめて事務的に言い放った。
「今後はお母様の後見人として、これらの一切を私が責任を持って管理させていただきます」
さらに、彼への報酬として月額6万円を支払う必要があることを付け足した…。
「あっ。そうそう。お母様の財産管理に伴って発生する交通費も発生しますので。早速でなんなんですがね。これ、いいですか?」
タクシーの領収書…。2,380円? おいおい。人のおカネだと思って、どんだけの距離、タクってるんだよ…。チッ。おかしいだろ、これって!
この日を境に、施設の支払いをするにも年金を引き出すにも、その都度、彼に連絡を取り、金額と必要時期と使途を伝え、彼の了承を得なければならなくなる。それどころか、銀行や郵便局等へ出向くのにかかった交通費まで請求される始末である。
ある時、母親名義の財産総額と明細を知りたいと依頼したことがあった。ところが、「後見人は管理対象である被後見人の財産状況について、ご家族に伝える義務は有していない。と言うよりも、ご家族に必要以上の情報を開示してはならないというのが裁判所のガイドラインなのだ」ときたものだ。
他にも、もう実家に戻ることもないであろう母の名義になっている実家の土地と家屋を売りに出すことを検討している旨を告げると、「不動産を売却しないとどうにもならない経済状況であることを示してほしい。その上で、私から家庭裁判所に相談してみる」とのこと。
結果的に母親名義の不動産に手をつけることは認められず、誰も暮らしていないし、この先も使用する可能性のない実家の固定資産税を納め続けるだけの状況がかれこれ5年も続いている…。
実の親名義の財産を赤の他人にすべて預けさせられ、1円たりとも実の子が触れることができないなんて…。この不条理を訴え打開策を探ろうと、法務省・家庭裁判所・金融機関・自治体の法律相談にコンタクトするも、どこも杓子定規で埒があかない。それどころか、「成年後見制度についてきちんと理解をした上で申請手続きをしたのですよね」と諫められる始末である。釈然としない日々は、母が亡くなるまで続くのだそうだ…。
【著者コメント】
終活ブームも久しいが、この市場を取り込もうと、最近は金融機関や法律家がかまびすしい。首都圏では盛んにセミナーが開催され、多くの場合、認知症になってもいいように、元気なうちに墓を用意しろ。葬儀の予約をしておけ。任意後見人を用意しておけ。遺言を書いて公正証書にしろ。弁護士や司法書士に家族信託契約を依頼せよ…といった具合である。途轍もない違和感を覚えずにはいられない。明らかに順番が違うと思うのだ。終活の第一歩は親子間で腹を割って会話することだ。それには、親世代から子ども世代に声をかけ、子どもの成長とともに離れていった心理的距離を縮めなければダメ。その上で、子どもたちに託すものと、子どもたちにサポートしてほしいことを伝える。このプロセスをすっ飛ばして、終活セミナーの煽動に乗ってしまうのはよくない。子どもたちとの関係修復に難がある場合に限って、公証証書遺言や成年後見制度や家族信託契約といったテクニカルな話を検討すればいい。終活の優先順位を間違えると、後々厄介なことになると肝に銘じておきたい。